ここで、人間が仮に完全に合理的だとしてみましょう。

そうすると、宝くじを買う人がひじょうにたくさんいることは説明するのが難しくなってしまいます。なぜなら、宝くじというものを全体としてみると、100円を支払って、その45円しか帰ってこないというくじだからです。つまり平均して損をすることは、前もってはっきりしているのです。できるだけ、金銭的な損をしない、という合理的な判断からすれば、基本的には買うべきではないものです。もちろん、宝くじを買っている人は当たった時のうれしさを想像して楽しんでいるのであって、その確率まで計算しているわけではないでしょう。

その他にも、人は「明日になったら受験勉強を始めよう、でも今日は別のことをしよう」という風に考えがちです。しかし、実際に明日が来ると、また同じことを考えて、つらいこと、いやなことを先送りしようとします。しかし、こうした先延ばし行動が合理的な決定とはいえないことは、ほとんど間違いありません。

こうした実際の人間の行動の多くが、理性的に考える合理性の原則とは相反する側面があります。どの程度こうした違いが生じているのか、さらに、どうして人間の心理はそういうふうにできているのか、といった点を心理学、生物学などから得られている知識もあわせて考えてみようというのが、講義の内容となります。